不義理の日
英国のBBC放送がこう報じたことがある。「英国国会議事堂の大時計がデジタル化されることになりました。長針と短針が不要となります。聴いてださっている人に進呈したいので希望者は申し込まれたし~~」。▼日本語放送だった。国際放送を聞いている人は多い。日本から申し込みが殺到した。だが残念、エープリルフールとわかった。▼4月1日に罪のない冗談で人を担ぐ。欧米で盛んだが、インドに発する風習との説もある。いわゆる四月馬鹿。中国から日本に伝わった江戸時代の呼び名が面白い。「不義理の日」といった。▼四角四面の毎日、たまには不義理、不真面目もよかろう、との趣旨だろうが、根っから緊張好きな人々の国なのだろうか、あまりはやらない。いや、日常の政治で、嘘は十分だという人もいるかも知れる。欧米では、この日、報道機関まで冗談や虚報をさりげなく報じるから油断がならない。▼大企業の合併。有名人の恋。尤もらしいが、想像力と遊び心の産物だ。「紙面の日付をご覧下さい」と何気なく記してあって、それと知れる。▼やはりBBCの日本語放送が「このほどコマーシャルを入れることになりました」と放送したことがあった。「関心のある企業はどうぞ」。つい、引っかかる企業が出る。▼ところでBBCといえば、その日本語放送は歴史が古く、人気が高かった。それが3月に廃止となった。毎日聴いている人が十年前の約半数、20万人程に減った、というのは理由らしい。戦時中の1943年(昭和十八年)に対日宣伝放送として始まったものだ。▼同様に、ラジオ・カナダ・インターナショナル(RCI)の日本語放送が、先月、廃止された。存続を願った人々の夢もついえた。経済削減が理由だ。これも時代だろうか。さびしく思う人が多いに違いない。▼何?いや、全て本当の話である。1991年4月1日 天声人語による
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