働き盛りに忍び寄るストレス
梅雨明けは九州付近で足踏みしているが、きょうは二十四節気の大暑。暦のうえでは暑さも盛の時期である。<兎も片耳垂るる大暑かな>と芥川龍之介は詠んだ。動物も猛暑にうんざり。ユーモラスな情景が、まぶたに浮かぶ。
そして明日は、芥川がみずから命を絶った「河童忌」だ。今年で80年になる。残された手記によれば、「ぼんやりした不安」にさいなまれた。今なら「うつ病」と診断されたのかもしれない。ともあれ人気作家の35歳での早世は人を驚かせた。
芥川と同じ30代で、職場の重圧から心や体を病む人が、近年増えている。厚生労働省によれば、心の病で労災認定された人が、昨年度は過去最多の205人を数えた。4割を30代が占めるというから、その突出ぶりに驚く。
体力気力がかみ合って、仕事も板につくのが30代だろう。だが「働き盛り」は「こき使われ盛り」でもある。男性の2割強が「過労死ライン」を超す長時間残業をしている。そんな調査結果もある。成果主義の荒波も容赦はない。
ストレスゆえか、30代による暴行事件も急増中だ。逮捕・書類送検は10年で5倍に。いまや「主役」が10代と入れ替わった。街頭などで、カッとなって暴行するケースが多いらしい。キレやすい30代像が、数字の向こうに浮かんでいる。
皮肉屋の芥川は人生を一箱のマッチに例え、「重大に扱うのはばかばかしい。重大に扱わなければ危険である」と言っている。ストレスという火種を上手に鎮める術が、30代ならずとも大切な今の時代である。
2007年7月23日 天声人語による
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