私は「悪ガキ」しか信用しない
人の2倍以上働く若者達――そんな誰もが欲しがる優秀な人材を集める。菅原社長の眼鏡にかなった「人材」は、枠にはまらない「悪ガキ」達。なぜ「悪ガキ」なのか?独自の人物鑑定眼の秘密を解き明かす。
「会社のカネを盗んでいなくなる。そんな奴もたまにいるけど、好んで「悪ガキ」を採用している。彼らは心に火が点くと凄い力を出すんだ」
従業員の選び方を尋ねると、玉子屋(東京都大田区)社長の菅原勇雄(すがはら・いさつぐ)は、満面の笑みを浮かべてそう話した。
玉子屋は、仕出し弁当の製造・配達を手掛け、首都圏のオフィスや工場で繰り広げられるランチ戦争の「勝ち組」企業。一日に配達する弁当の数は平均5万5000食で、国内有数の規模を誇る。売上高は70億円(2004年5月期見込み、グループ全体)で、前期比4億円の増収を見込む。
その強さはユニークな超効率経営にある。弁当の原価率は同業他社より2割以上も高い54%で、こだわりの食材を使う。
配る弁当の数は普通の2倍
その一方で、従業員達が効率的に働くことで材料費以外のコストを切り詰めている。
例えば、玉子屋の配送スタッフが一日に配る弁当の数は1人当たり400~450食で、同業他社のおよそ2倍。さらに、新規顧客の開拓や、顧客から弁当の感想やライバルの動向を聞き出す営業活動まで、配送以外の仕事もいとわない。盛り付けの現場でも、自主的なミーティングを開き、作業の効率を徹底的に追及する。
その結果、従業員は一人で何役もこなし、同業他社の2倍以上働くという精鋭部隊になっている。現在の従業員数は500人(グループ会社を含む)。そして、その中核が「悪ガキ」達だ。
菅原が言うところの「悪ガキ」とは、「学校で落ちこぼれたとか、夢を追って破れた奴」のこと。元暴走族から、高校・大学を中退したフリーターまで幅広く含む。
「養殖」と「天然」で 歴然とした差が出る
ではなぜ、「悪ガキ」が力を発揮するのだろうか?
菅原は、魚の「養殖」と「天然」を例に説明する。
「養殖の魚は、生け簀の中で餌をもらって育つ。人間で言うと、親や学校の先生が敷いたレールの上を走るタイプのことで、人間自身が持っているエネルギーが少ない。一方で、天然の魚は自ら餌を取る。人間なら、自分で物事を考えて決めてきたタイプのこと。悪ガキ達はこれに当たる。そういう人間は心の中に大きなエネルギーを持っているんだ」
そして、そのエネルギーの差は仕事を身に付ける中で、「能力の差」として現れてくるという。
まず「悪ガキ」達の方が仕事を覚えるスピードが早い、と菅原は説明する。
例えば、玉子屋では、弁当を配送するライトバンは、一日の内に何回もルートや配る弁当の数が変更される。こうした時に、機転を利かせててきぱき動けるのは、天然タイプの「悪ガキ」達だという。
「養殖タイプは、指示通りにやろうと考え過ぎるから、何か変更があると、動揺して的確な判断が下せない」
そして、顧客志向という点でも、「悪ガキ達は優れている」と菅原は力説する。一般的な会社員は顧客からの評価より、上司からの評価が気になる。ところが、「悪ガキ」は上司より顧客が気になるというのだ。
「悪ガキというのは、人に誉められたことがほとんどないから、お客様に誉められると本当にうれしいんだよ。だから、お客様のためなら上司とケンカするのも平気なんだ」
実際、玉子屋では従業員が、もっとお客のために業務を改善したいと言って、上司を突き上げることが日常茶飯事で起きる。
「上司の顔色をうかがう気がない。あるいは、それさえ気付かないほど、素直な子達なんだ」
さらに、実力主義を受け入れ、たとえ一時的に左遷されても、腐らずに働くのもまた、「悪ガキ」達だという。
玉子屋では7年程前から、本格的に実力主義の人事を導入している。実績さえあれば、アルバイトでも配送スタッフの班長といった管理職に抜擢する。
その結果、上司と部下が入れ替わる「下克上」の人事が発生することも少なくない。それでも会社の雰囲気が悪くなることはないという。
挫折を経験したことのある「悪ガキ」は、失敗から立ち直る術を知っている。だから降格されても、一からやり直そうと前向きに捉えることができるというのだ。実際、降格後に努力し、再び元のポストに戻るのは、「悪ガキ」達がほとんどだ。
一見、アバウト 実は緻密な入社試験
とは言え、菅原の言う「悪ガキ」の定義はやや曖昧だ。人は生きていれば、失敗や挫折の経験を持つ。どうやって素質のある「悪ガキ」を集め、会社組織の中で活かすのか。その秘密は採用にある。採用ルートは新卒、中途、アルバイト・パートの三つ。重視するのは面接だ。合否に明確な基準があるわけではないが、必ず不採用になるのは、「前の会社では、自分なりに頑張ったのに認めて貰えなかった」といったネガティブな回答。ここまではどこの会社でも同じだろう。
ユニークなのは、志望動機の評価基準だ。「配達で体を鍛えられるから」「昼代が浮くから」といったシンプルな回答を喜ぶ。その理由は、「過去の経験から、単純な奴の方が伸びるからだ」。
合格ラインを超えた入社希望者から、菅原はこれまでの半生を聞き出す。
例えば、菅原は「彼女がいるかどうか」をよく聞く。別に彼女がいないと不合格というわけではない。
「若いのに1人の女性と長く付き合うタイプは、真面目な半面、融通が利かないことがある。一方で、常時、2、3人の女性と付き合うようなタイプは、口がうまくて要領が良いから、営業に最適。でも、ルーズなところがある。配置や指導をする時に、それぞれ注意しなければならない」
なぜここまでするのか。それは、細かく性格を分析しなければ、最適な指導法や配属先は分からない、と菅原が考えているためだ。その結果、「他の会社ではどうしようもなかった奴が、うちでは活躍している」と菅原は話す。
「悪ガキ」達を集め、育てる過程の中で、玉子屋は普通では想像も付かないリスクをあえて受け入れてきた。それは冒頭でも触れた、会社のカネを使い込むというトラブルだ。かつては、集金で手にした100万円、200万円というカネを使い込む人間が少なからずいたという。
「これまでに何人いたかは、多過ぎて分からない」。菅原は笑いながら教えてくれた。
使い込み発覚後の行動は人によってまるで異なるそうだ。姿を消す者、返済して辞める者、使い込んだカネをきちんと返して、そのまま会社で頑張る者と様々だ。
絶体絶命の危機を救ったのも悪ガキ達
菅原は、使い込みを反省し、カネを自力で完済したケースを高く評価する。
「カネを返すには、働く時間を増やさなければならない。朝4時から調理や盛り付けをやって、8時から通常の配達・営業をやる。さらに、土曜日も会社に出てきて仕事をして、日曜日は別会社で働く。うちの業務の流れを全部知っているんだから、素晴らしい営業マンになる」
にわかには信じがたい話だが、実際にこうした事件を起こしながら、玉子屋を支えるエース級の人材に育った例も少なくないという。
菅原の息子で、副社長の勇一郎が笑いながら話す。
「社歴が浅い人は知らないから、まさか自分の上司が、昔、200万円も使い込んだと聞いたら驚くだろうな」
いつからここまで「悪ガキ」を集め、育てるようになったのか。
一つの契機となったのが、1985年に起こした食中毒事件だ。新聞沙汰になり、1週間の営業停止になった。絶体絶命の危機に、苦労して採用したはずの学卒者が次々に辞め、残ったのは菅原が言う「悪ガキ」達だけだった。そして、その「悪ガキ」の一人が担当する大口顧客が、事件以後も注文を出し続けてくれたことで生き残ることができた。
その後も、最前線で八面六臂の活躍をするのは「悪ガキ」達ばかり。その姿を見る度に、菅原は自分の考え方は正しいとの思いを強めてきた。
「彼らが成長していく姿は、驚きの連続で本当に楽しい」と菅原は話す。
菅原独特の人物鑑定眼は、すべての企業に応用できる方法とは言えない。しかし、常に従業員達の本質を理解しようと努め、ふさわしいチャンスを与える菅原の姿勢に、学ぶべきことはたくさんある。
菅原社長が見抜いた「悪ガキ」達の3つの長所
1、実は「勉強熱心」
学校という場で「お勉強」をする機会がなかっただけで、仕事を覚えるスピードは早い。
2、実は「顧客志向」
人に感謝されることが何より嬉しい。お客のためなら上司とけんかするのも平気。
3、実は「逆境に強い」
年下でも力のあるものが上に立つのが当たり前だと考えている。降格人事でもやる気を失わない。
NIKKEI VENTNRE 2004.4
好赞,不过怎么人这么少·· 好老的文啊
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