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朝日新聞・天声人語 平成二十四年(十月)

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发表于 2012-10-1 17:53:24 | 显示全部楼层 |阅读模式
2012年10月1日(月)付
 この駅に向かう列車はすべて上りとなる。「都(みやこ)でひと旗」の時代には、若い野心が全国から降り立ち、入れ違いに失意の背が車中に消えていった。百様の人生が、始発終着のそれぞれに揺れる▼汽笛一声新橋を……。明治期の鉄道唱歌がそう始まる通り、東海道線の起点は新橋、同じく東北線は上野だった。かたや、新宿から西へと進み続ける中央線は東にも延びていた。三線を束ねるべく、皇居わきの原っぱに東京駅ができたのは1914(大正3)年12月である▼丸の内の駅舎は赤れんがの3階建てで、「帝都の表玄関」を意識し、南北に300メートルを超す威容となった。戦災で失われた二つのドーム屋根や3階部分が、5年をかけて創建時の姿に復元され、きょう全面開業する▼屋根材には、大津波をくぐった宮城県産の天然スレートが使われた。美しさでも世界屈指の鉄道駅だろう。高層化しないことで生じる「空中権」を周りの新築ビルに譲り、約500億円の工費を賄ったと聞く。賢い投資である▼〈ふるさとの訛(なまり)なつかし停車場の人ごみの中にそを聴きにゆく〉。岩手出身の啄木の感傷は、往時の上野駅以外では成立しない。同様に、赤れんがの東京駅と切り離せない喜びや哀(かな)しみ、出会いと別れがある。積もった時だけが醸す存在感に、代役は見当たらない▼建造物の復元は、そこにまつわる無数の、そして無名の記憶を守ることでもある。人は記憶の辺(ほとり)にたたずんで、熱いまま捨てた思いや、砕けた夢のかけらを拾う。
2012年10月2日(火)付
 各地の水辺で旅鳥(たびどり)が観(み)られる季節である。北国で繁殖し、日本を経て越冬地に南下する渡り鳥で、チドリやシギの仲間が多い。国内でひと夏、ひと冬越す鳥たちに比べ、どこかお客さんのよそよそしさがある▼陸揚げされた岩国基地から、沖縄の普天間飛行場へ。しばし休んで飛び去る旅鳥のように、米海兵隊の輸送機オスプレイが渡り始めた。台風をやり過ごし、いよいよの「実戦配備」である▼住宅地にあり、世界で最も危険とされる基地に、墜落が続く新型機がたむろする。日本を守る約束には「沖縄を捨て石に」のただし書きが付いているかのよう。「頭に落ちてくる可能性があるものを、誰が分かりましたと言えますか」。県知事の怒りは当然だ▼軍用機に求められるのは、様々な「強さ」だろう。下界の平穏は、乗り心地や騒音と同じく二の次、三の次だ。日米両政府の安全宣言ひとつで、「安心」になるわけではない▼オスプレイの沖縄投入の背景には、中国の軍拡という要素もあるやに聞く。尖閣諸島をめぐる緊張と、かの国のあけすけな圧力は、安全性に対する心のハードルを引き下げた感がある。少し危なっかしくてもという「甘え」が、本土の国民になかろうか▼すぐ西には尖閣の島々、台湾海峡、中国本土。きな臭い東シナ海に、同じ臭いの渡り鳥が飛来し、有事の空気はさらに濃い。これを吸わされるのも沖縄の民だ。安保の負担に加え、外交のツケまで回され、日本という国に愛想が尽きても不思議はない。
2012年10月3日(水)付
 昭和が薫る名言「男の顔は履歴書」は、「女の顔は請求書」と続く。それなりの容姿を保つには金がかかる、という意味だろう。美顔エステやサプリメントは「10歳若く」などと宣伝するが、時を戻すのは重力に逆らうより難しい▼ダビンチの名画「モナリザ」の、若き日の姿を描いたような絵がある。先ごろ専門家が「これもダビンチの作」と鑑定した。すなわち時は戻り、ルーブル美術館にある至宝は「連作の2枚目」ということになる▼この絵は1913年、英国で見つかった。発見地の名から「アイルワースのモナリザ」と呼ばれ、ここ40年はスイスの銀行が保管中。実は6月まで、日本での美術展で公開されていた▼二つの美顔は造作がそっくりで、ポーズも同じだ。デジタル解析、炭素による年代測定の結果、巨匠自身が同じ女性を約10年前に描いたもの、と判定された。未完の背景は筆致が異なり、別人が描き足したらしい▼疑問もある。モナリザはポプラの薄板に描かれたが、若い方はダビンチには珍しくカンバスの上でほほえむ。髪形まで一緒なのに細部の仕上げが違うとして、模写と断じる識者もいる。筆者も「初対面」での違和感、つるりとした気味悪さを拭えないでいる。魔性の若さである▼思えば、これほど「消費」されてきた絵もなかろう。まねされ、盗まれ、日本にも来た。研究論文、関連商品、パロディーのたぐいは数知れず、今も話題を提供し続ける。5世紀分の「微笑代」を請求したいに違いない。
2012年10月4日(木)付
 おおらかな時代、野球場の周りには「ただ見の名所」があったものだ。ビルの屋上に人影を認めても、とがめる客などいない。しかし内野席やネット裏にかなりの「ただ」が交じると知れば、穏やかではなかろう▼3割近い世帯が払っていないNHKの受信料にも、同様の不公平感がくすぶる。10月からの初値下げは、払っている世帯の不満を和らげる「施し」だろうか。いかんせん不払いが多すぎる▼受信料の支払率は、今年3月末で72%台である。新たに公表された都道府県ごとの数字を見て、その地域差に驚いた。支払いの歴史が本土より浅い沖縄は42%で、6割近くが払っていない。次いで大阪57%、東京61%と続く▼逆は秋田の95%を筆頭に、島根91%、新潟90%など。これほどの格差を知れば正直者は収まるまい。NHKを見たくない人のためにも、払わなければ映らないスクランブル放送を望む声がある。球場でいえば、外からのぞけないドーム化だ▼財産の差し押さえなど、NHKの「取り立て」は厳しさを増し、空室や視聴時間に配慮してきたホテルチェーンに対しても全室分を求め始めた。3万4千室が未契約の東横インは、裁判で5億5千万円を請求されている▼増収や効率化と並んで、NHKの重い宿題は公共放送ならではの番組づくりだ。「Nスペ」的な深掘りや、かつての「プロジェクトX」のような教養系にこそ、お金と人を割いてほしい。ただ見は捨て置けないけれど、有料で見せられる凡戦もつらい。
2012年10月5日(金)付
 ジャマイカのとある郊外、盲人を装う三人組が縦に並んで進む。彼らが消音器つきの拳銃を向けたのは、任地で謎の妨害電波を探る英情報部員だった。映画「007」の第1作「ドクター・ノオ」の冒頭だ。地元英国での公開から、きょうで50年になる▼シリーズは半世紀を経て、近く封切りの新作で23本を数える。主人公ジェームズ・ボンド役は、初代のショーン・コネリーから6人の色男がつないできた。仕事は違えど、洋画界の寅さんである▼ボンドガールにボンドカー、秘密兵器の数々。第17作からは上司が女性になった。手をかえ品をかえ、ただし酒の好みなど細部にわたるファンへのお約束は守りつつ、娯楽映画の王道をゆく▼国際情勢に敏感なスパイものらしく、歴代の敵役は時代を映してきた。冷戦期の常連はソ連だが、その上をいく巨悪として国際犯罪組織スペクター。さらには、世界征服をたくらむ大富豪、麻薬王、メディアの支配者と、世に悪は尽きない▼第1作の公開日は、ビートルズが「ラヴ・ミー・ドゥ」でレコードデビューした日でもある。くしくも同じ誕生日を持つ二つの「遺産」は、ともにロンドン五輪の式典を盛り上げた。英国に発し、世界中で愛され続ける傑作だ▼大英帝国の力は衰え、20世紀はアメリカの時代となった。しかし斜陽とされた国からも、歴史に名を刻む大衆文化は生まれる。軍事や経済以外のソフトパワーに、改めて着目したい。10月5日、今の日本を勇気づける記念日である。
2012年10月6日(土)付
 自転車をこぐのは、20歳くらいのお嬢さんだった。コンビニのおにぎりを左手でほおばる合間に、右手がスマホをいじっている。四肢と五感を総動員した「曲乗り」である。歩行者をはねる勢いはないけれど、ふらつく本人が誰より危ない▼マイカーがなく、街歩きが趣味の当方、自転車はいつも強者と映る。歩道で身の危険を感じるのは、高速でのすり抜けだ。こちらは若い男性が多い。運動神経に感心する前に、常識を疑ってしまう▼運転免許こそ要らないが、自転車は道路交通法にしばられる。昨年摘発された信号無視などの違反は4千件に迫り、5年前の約7倍、今年はさらに4割増しのペースという。警察庁は、悪質な違反者への安全講習を検討し始めた▼マナーやルールの徹底とは別に、人を自転車から守り、自転車を車から保護する早道は、専用道や優先レーンだろう。街を安全にする公共事業は歓迎だ。「自転車天国」のオランダで車を走らせた経験からすると、交通の分離でドライバーも楽になる▼駐輪場や都市型レンタサイクルは増えたが、走る環境が整わないと勇んで乗る気にならない。エコと健康に資する利器をのけものにしないよう、皆で知恵を絞りたい。この乗り物、悪役は似合わない▼〈あまりにも落葉の美しき歩道にて路肩を選(え)りて自転車を漕(こ)ぐ〉後藤正樹。まずまずの日和(ひより)に恵まれそうなこの連休、ペダルを踏み込み、しばし秋風と遊ぶのもいい。きらめく季節を頬(ほお)に、はずむ命を靴底に感じながら。
2012年10月7日(日)付
 「芝居というものは、しみこむほど稽古(けいこ)をして、にじみ出せるようにする」。亡くなった大滝秀治(ひでじ)さんの芸への姿勢は、劇団の先輩、宇野重吉さんの教えでもあった。きびしい稽古ぶりをお聞きしたことがある▼40余年前、東京裁判をテーマにした舞台劇「審判」でのこと。大滝さん演じる日本人弁護人は裁判の正当性に根源的な疑問を投げかける。その重要なせりふに、演出の宇野さんは連日、これでもかとダメ出しをした▼「あまり興奮しないように」「正義の味方になってはいけない」「異議申し立てではない」「ごまめの歯ぎしりのように」「最後っ屁(ぺ)のように」。実に16通りもの注文がついた。びっしり書き込んだ台本を、大滝さんは大事にしていた。この大役で、遅咲きと言える花を咲かせる▼娘さん2人が幼いころは「悪役」が多かった。時代劇では切られる、子どもは誘拐する。奥さんが娘とテレビを見ていたら「お父さんはあんなひどい人じゃないーっ」と泣きだしたそうだ▼その後の活躍と、齢(よわい)とともに増していった存在感は誰もがご存じだろう。大まじめに話しながら、とぼけたユーモアがにじむ。巧まざる飄然(ひょうぜん)、哀と歓。古酒の味わいにも似た円熟は、しみこむような稽古の賜(たまもの)だったに違いない▼6年前にお会いしたとき、「テクニックというものには『たくらみ』が入っているんです」と話していた。にじみ出る味わいとは違う。そんな意味にお聞きした。享年87。枕元には舞台の台本が置かれていたそうだ。
2012年10月8日(月)付
 東京の銀座裏で小料理屋を切り盛りした俳人、故鈴木真砂女(まさじょ)さんは魚どころの千葉県鴨川に生まれた。卒寿を過ぎても魚河岸へ通い、厨房(ちゅうぼう)に立った女将(おかみ)ならではの一句がある。〈悪相の魚は美味(うま)し雪催(ゆきもよい)〉。魚を詠みつつ、どこか人間観察のような趣も秘めて奥が深い▼美味で知られる悪相にはアンコウなどがある。とはいえ多くは、味わう前に見た目の悪さで嫌われる。そうした、いわゆる「外道」を料理屋へ卸す珍魚ビジネスが上げ潮だと、大阪本社版の記事が伝えていた▼ごつくて斑紋のあるミシマオコゼ、エイの仲間のウチワザメ、怪しげなヌタウナギなど、姿を見れば口にするのに勇気が要りそうだ。しかし食味はなかなかという。それに切り身にでもすれば、もとの風体は分からない▼悪相でなくても、まとまった量が獲(と)れない、なじみがない、などと捨てられる魚は少なくない。正確な統計はないというが、国内で年間に約62万トンが投棄されているとの推計もある。これでは魚も浮かばれない▼魚食の民・日本人の食卓も近ごろはいびつだ。回転ずしでは皿を積み上げながら、家庭では魚離れが進む。まな板がくさくなる、いやなにおいが部屋にこもる……。魚にさわれぬ若い人も多いと聞く▼真砂女さんには〈鰯(いわし)裂(さ)くに指先二本安房(あわ)育ち〉の句もある。包丁がなくても親指の爪と人さし指でさばくそうだ。殺生の手ざわりに、滋味をいただく感謝も深まろう。悪相もイケメンも魚一匹に命ひとつ。粗末にしては申し訳ない。
2012年10月9日(火)付
 「日本代表」は五輪やW杯だけではない。連休中、テニスの錦織圭選手は母国でツアー2勝目をあげ、パリの凱旋門賞に挑んだオルフェーヴルは首の差に泣いた。そして、山中伸弥京大教授(50)のノーベル医学生理学賞である▼教授が先駆けた「iPS細胞」はあらゆる人体組織となり、再生医療の切り札と期待される。ご自身が「まだ一人も助けていない」と謙遜した通り、いわば現在進行形の発明だ▼自分の皮膚から作った細胞で、臓器を治せる日が来るかもしれない。山中さんには、難病の患者や家族から激励と相談が絶えないと聞いた。「待つ人」の存在はありがたくも、身が引き締まる思いだろう▼同僚のチームはマウスのiPS細胞から卵子を作り、子を誕生させた。万能細胞をめぐる日進月歩を、山中さんは冷徹に見守る。今は京大iPS細胞研究所の初代所長として、倫理面など、ほやほやの技術の管理にも関わる立場となった▼お見かけする限り近づきがたさはない。白衣より小じゃれたジャケットが似合う、ナイスミドルの趣だ。19歳で芥川賞を受けた綿矢りささんが、苦節何年の風情から遠かったのを思い出す。「らしくない」人の栄誉は、清新でいい▼この賞も、ゴールではなく新たなスタートだろう。道を究めれば、一人の医者が一生かけて救える命の、何倍もを救える。まだ見ぬ功績は「日本代表」の域を超えて、人類史に刻まれるかもしれない。未来につながる「現役の頭脳」の快挙を、ともに喜びたい。
2012年10月10日(水)付
 アラン・ドロンの出世作「太陽がいっぱい」は、裕福な友になりすまして財産を狙う話だった。別人を装う点は振り込め詐欺も同じだ。こうした「世俗の悪事」に比べ、ネット空間の闇は底が知れない▼「歩行者天国にトラックで突っ込む」「伊勢神宮を爆破」。この手の書き込みは、業務を妨害した罪に問われる。警察は発信元のパソコンを割り出し、大阪と三重の男性をそれぞれ逮捕した▼ところが、2人のパソコンは同じウイルスに感染していて、何者かに遠隔操作で乗っ取られた疑いが濃くなる。真犯人は持ち主になりすまし、犯罪予告に及んだらしい。否認で通した2人は慌ただしく釈放された▼個人情報の流出ばかりか、愛機を不正アクセスやサイバー攻撃の踏み台にされ、濡(ぬ)れ衣(ぎぬ)を着るなど御免だ。大阪の件は起訴され、裁判になるところだった。捜査側がよほど心しないと、不運な被害者は冤罪(えんざい)の責め苦まで負うことになる▼ネット上には日々20万種ものウイルスが放たれ、対策が追いつかないそうだ。生活感の乏しい部屋で、陰々と悪意を「培養」している輩(やから)に言いたい。人生は短い。他を陥れる暇と知恵があるなら、「自分の今」を楽しまないか▼ツイッターでは、時の人、山中伸弥教授の名をかたる者が「ノーベル賞キター」などとやっている。これはご愛敬としても、ネットに巣くう悪はドライなようで、じめっと嫌らしい。ホラー映画で人に取りつく悪霊やエイリアンのごとく、迷いなき狡知(こうち)にあふれている。
2012年10月11日(木)付
 わが国での開催は48年ぶりとなる。国際通貨基金(IMF)と世界銀行の年次総会だ。14日まで、188カ国の財務相や中央銀行総裁らが世界経済のあれこれを論じ合う▼約2万人が来日するこの祭りに、中国はトップを送らず、大手銀行も欠席させるという。尖閣の一件を理由に、日本に恥をかかせる腹なのか。あらゆる機をとらえての意趣返しは、体ばかり大きい子どもを思わせる▼IMFは世界の成長見通しを引き下げた。ユーロ危機は長引き、日米の財政難は変わらず、新興国の勢いにも陰りが見える。こんな時こそ協調が必要なのに、大国の自覚はないらしい。せっかくの場をプロパガンダに使う粗雑さは、未熟な国内市場とも重なる▼中国では日本車の販売が失速した。9月はトヨタが去年の半分、日産やホンダも約4割の減で、ドイツや韓国の車が売れている。政府が不買を容認し、性能や価格で選ばれるべき商品が憎悪の的になる。悲しいかな、これが「世界一の新車市場」の現実である▼報復を案じてか、日本ツアーの解約も続く。心配ご無用、少数の嫌がらせはあったが、五星紅旗も中華街も安泰だ。国柄や民度に触れるまでもなく、それが世界の常識というものだろう▼経済規模で世界2位とはいえ、その源泉である13億人の所得格差は広がり、民主主義なき発展の矛盾は覆いようもない。官民あげての「愛国無罪」も、国際社会の評判を落とすだけである。とりあえず「大人の所作」を覚えよう、と難じておく。
2012年10月12日(金)付
 くたびれる夜勤で、ストレスのはけ口にされては駅員もたまらない。昨年度、鉄道職員への暴力行為が過去最多となった。危ないのは酔客が交じる夜である。統計に表れない客同士のトラブルは、その何倍もあろう▼しかも、車内の怒鳴り合い、つかみ合いの沸点が下がっているようだ。肩が触れ合う空間には、かんしゃく持ち、気配り下手、仕事でしくじった人もいる。許容の物差しは各様で、ささいな言動があらぬ化学反応を起こす▼思えば、都会そのものが巨大な満員電車のようなもの。軒を接し、壁を隔てて多数が暮らせば、気に障ることもあろう。物音、臭い、習慣、立ち居振る舞い。大概は互いの気遣いで収まるが、ひとたび顔を見るのも嫌になると、火薬はたまるばかりだ▼東京の世田谷区で、元警察官の男(86)が向かいに住む女性(62)を日本刀で殺害し、自ら命を絶った。二つの家に挟まれた細い路地では、植木の世話やゴミ、猫の餌やりを巡ってもめ事が絶えず、警察が駆けつける騒ぎもあったという▼都市生活には近隣トラブルがつきものだ。東京、大阪といった「揺れのひどい大型車両」には、爆発寸前の関係も潜む。近所が間に入るなりして、火薬を抜くしかない▼「仲よき事は美(うつ)くしき哉(かな)」「君は君我は我也(なり)されど仲よき」。ごろりとした野菜に添えた武者小路実篤(むしゃこうじ・さねあつ)の画賛を読み返す。人は感情に動かされるが、それを制する理性も併せ持つ。実篤が好んだ南瓜(かぼちゃ)でも食し、心の火種を自ら除いておきたい。
2012年10月13日(土)付
 およそ戦争は「大人の男」が始め、あすを担う女性と子どもの犠牲に耐えかねて終わる。武力をもてあそぶ者にとって、時に「おんなこども」は煙たい。それが物申す人であれば、脅威にも映ろう▼パキスタンの武装勢力が、彼らの非道ぶりを訴えた14歳の少女を狙い撃ちにした。テロ組織アルカイダにつながるパキスタン・タリバーン運動(TTP)は犯行を認め、「誰だろうが逆らう者は殺す」と居直る▼銃撃されたマララ・ユスフザイさんは、女子教育を認めないTTPに屈せず、おびえながら学校に通う日々を3年前からブログに記してきた。パキスタン政府は平和賞を贈り、共感の輪が世界に広がったが、TTPには睨(にら)まれた▼地元の警察によると、下校の生徒を乗せたスクールバスに覆面の男が乗り込み、「マララはどこだ」とすごんで発砲したそうだ。銃弾は頭部に当たり、予断を許さぬ容体という。他の少女2人も負傷した▼見境なしとはこのことだ。子どもまで手にかける歪(ゆが)んだ大義に言葉を失う。過激なイスラム主義を奉じるタリバーンは、支配地で娯楽を禁じるなど、厳しい戒律を強いてきた。アフガニスタンでは、貴重なバーミヤンの大仏を「偶像崇拝だ」と爆破している▼蛮行の数々は、平和を愛するほとんどのイスラム教徒にも迷惑至極だろう。今はただ彼女の快復をアラー(神)に祈りたい。――少し休もうか、マララ。君を貫いた銃弾は、何万倍もの怒りとなって、女性差別と狂信者たちを撃つはずだ。
2012年10月14日(日)付
 「欧州の天地は複雑怪奇」と言い残して辞職したのは、戦前の首相平沼騏一郎(きいちろう)だった。あまたの国が国境を接し合い、深謀と機略の渦巻く大陸の駆け引きは、島国の政治家には見通せなかったらしい。その4日後、ドイツがポーランドに侵攻して第2次大戦が始まる▼「われらの一生のうちに二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争」と国連憲章にある。2度の世界大戦で欧州は戦場になった。惨禍を繰り返すまい、という理念の下につくられた欧州連合(EU)に、今年のノーベル平和賞が贈られる▼「ヨーロッパを戦争の大陸から平和の大陸に変えた」というのが授賞の理由という。争いを繰り返した仏と独が協調してEUを引っ張る。その図を奇跡と評する声もあると聞く▼9年前のこと、イラクとの開戦にはやる米国が、反対する仏独を「古くさい欧州」と非難した。それを逆手に取り、仏外相は国連で「戦争と占領と蛮行を経験した古い国から」と意見を述べて異例の拍手を浴びた。演説に込めた思いはEUの原点でもあったろう▼とはいえ、貧すれば鈍す。いま経済危機という最大のピンチに、ユーロ圏の国々はきしみ、反目も目立つ。震源のギリシャは「底の抜けた樽(たる)」といった謗(そし)りを浴び、反動から極右政党が台頭している▼批判もあるのが平和賞の常だが、まさに真価を問われる受賞となる。欧州は自信を持て、とのメッセージでもあろう。グローバル時代、かの天地の先行きに世界の誰も無縁ではいられない。
2012年10月16日(火)付
 本音を語って、誰も傷つけない。87歳で亡くなった丸谷才一(まるや・さいいち)さんはスピーチも名人で、それだけをまとめた本がある。悪口を一つ入れたら十か二十ほめるそうだ。ただし、作中の風刺に迷いはなかった▼代表作『女ざかり』の主人公は大手紙の女性論説委員。早々に「新聞の論説は読まれることまことにすくなく、一説によると全国の論説委員を合計した数しか読者がゐないといふ」の一節がある。当方、新刊では噴き出したが、論説に身を置く今は戒めの言葉でもある▼洒落(しゃれ)たユーモア、博識を駆使して随筆、評論、翻訳と広く手がけた。「日本文学の中心には和歌があり、その中心は天皇の恋歌(こいか)」と説く。独特の旧仮名遣いも、40年前の歌論『後鳥羽院(ごとばいん)』から始まった▼引用が旧仮名、他は新仮名という使い分けが面倒で、旧に統一してみたら筆が進む。「後鳥羽院と僕が一つの文明の中で結びつく感じが迫ってきて、いい気持ちだったんです」と、対談で山口瞳さんに明かしている▼文学賞の選考委員として、早くから村上春樹さんを推していたこともよく知られる。「必ずスゴイことになる」と。その人は芥川賞を飛び越し、ノーベル文学賞に擬せられる。我が意を得たりだろう▼かねて「文学者の生涯は、最初から余生を生きているようなもの」と達観していた。昨年の文化勲章にも気負うことなく、「学問も芸術も面白がることが大事です」。世の中を面白がり、それ以上に面白がらせ、長くも濃密な「余生」を完結させた。
2012年10月17日(水)付
 売名が目的なら、ずいぶん安く売ったものだ。いや、高くついたというべきか。iPS細胞の「実用」で騒がせた森口尚史(ひさし)氏(48)である。「気鋭の学者」だったのは1日だけ。氏は手柄話の大半を虚偽と認め、たちまち怪人の扱いとなった▼山中伸弥教授にノーベル賞をもたらした万能細胞を、いち早く治療に使ったとすれば医学史に残る出来事だ。読売新聞が1面トップで報じ、共同通信が追いかけ、配信先の地方紙やテレビ局が伝えた▼うそと分かり、各社はおわびや検証に追われている。記者会見では、質問というより詰問の矢がぶすり、ずぶりと、しどろもどろの藪(やぶ)に突き刺さった。手術は6回ではなく1回、私は見学しただけ、証明は難しいと、発言は後退を続ける▼いずれボロが出る作り話を堂々と語ったのはなぜか。世間の関心は「治療」のてんまつより、森口氏その人に移りつつある。氏の研究には国も助成しており、後始末が大変だ▼多くの難病患者と家族が、iPS細胞に希望をつないでいる。だが、ここで拙速に流れては新技術に傷がつきかねない。病床の思いを誰よりも知る山中さんだが、さらに研究を重ねて万全を期す方針という。雑音に動じず、先を急いでほしい▼それにしても、待つ人の渇望、待たれる者の重圧や覚悟にお構いなしの、はた迷惑な一人芝居を見せられた。森口氏に転職をお勧めした上で、有名大学の肩書、専門家の威光、何より「旬のスクープ」に弱い、我らメディアの習性を戒めたい。
2012年10月18日(木)付
 捕まらない自信があるのだろう。他人のパソコンを遠隔操作し、殺人予告などを送信させた「真犯人」から、手口や目的を詳述した犯行声明である。東京の弁護士と放送局に届いたメールには、犯人だけが知り得る事実が含まれていた▼この人物は、事件で逮捕された4人に「巻き込んですみません」と謝る。一方、警察と検察には「あそんでくれてありがとう」とふてぶてしい。望み通り、捜査当局に「ネット冤罪(えんざい)」という恥をかかせた形である▼逮捕の決め手はいずれも、インターネット接続時に残るIPアドレス、いわばパソコンの指紋だった。ネット犯罪では、これの特定が犯人に迫る早道とされるが、犯行現場に他人の指紋を残せるとなれば、サイバー捜査のイロハが揺らぐ▼逮捕時は否認したのに、訴え空しく動機まで「自白」した人もいるらしい。「動かぬ証拠」をもとに、またぞろ密室で強引な調べがあったのではないか。体は拘束を解かれても、心の傷はなお残る▼ネットの闇には、面白半分に腕試しをしたがる狂気が潜んでいる。乗っ取りウイルスの主も、そこそこの手練(てだ)れなのだろう。そして、己の愚行が誰かの人生を狂わすことに想像が及ばぬ、高慢な未熟者に違いない▼誤認逮捕で人権を侵し、時間と血税を無駄に使った警察は、まなじりを決して逆襲するしかない。この手のモンスターが野放しでは、おちおちクリックもできない。愉快犯の続発を防ぐためにも、うぬぼれの仮面をはがし、素顔を拝みたい。
2012年10月19日(金)付
 その悔しさ、男は想像するしかない。「トイレで泣くときは声を出しちゃいけない……ハンカチを口に当て、歯を食いしばる。声を出さない泣き方も自然に覚えていった」。24歳の時に見知らぬ男2人に暴行された女性の手記から引いた▼沖縄で16日未明、米兵2人が女性を襲った疑いで逮捕された。帰宅中の被害者に声をかけ、追いかけて物陰に引きずり込んだという。通報を受けた県警の捜査員が、ホテルにいた2人を捕まえた▼いずれも米本土の海軍基地に所属し、3日に来日して14日に沖縄入り、16日にはグアムに移る予定だった。その数時間前だから、高飛びを逆算しての犯行らしい。二重三重の卑劣である▼言い間違いと思いたいが、森本防衛相は何度か「事故」と口にした。正念場の日米同盟に無用の波風を立てる偶発事、そんな思いが胸の片隅になかろうか。女性にすればむろん事故ではなく、己を消されるほどの悪夢だろう▼それこそ事故続きのオスプレイを配備され、全県が怒りに燃えている折だ。日米の政府は時局知らずの愚行と頭を抱えるが、ことの本質は出張兵の鈍感さではない。米国が沖縄を、米兵が日本女性を、占領中と同じ目で見ているような現実にこそ、いびつな同盟の矛盾が凝縮する▼婦人団体代表は「空に欠陥機、夜道に米兵」と嘆いた。騒音から犯罪まで、基地の負担を狭い島に押しつける国策は、やがて日米関係をも損なおう。沖縄の痛みを分かち合える想像力が、本土の側に問われている。
2012年10月20日(土)付
 フクロウは知(ち)のシンボルとされる。大樹の洞(うろ)で黙考する様(さま)は哲学者風で、丸顔と渋い体色に字を当てれば福老(ふくろう)とでもなろうか。ただし、動物としての本性は抜け目のないハンターらしい▼自在に回る首、幅のある口、鋭い爪。体の造りすべてが、夜の狩りを支えている。翼は広く、速くはないが小回りが利き、音もなく飛べる。立体視に優れた大きな目、集音に秀でたパラボラ状の顔面で、獲物との距離を瞬時につかむそうだ▼白眉(はくび)は、羽を広げると2メートルに近いシマフクロウだろう。開発に追われ、国内では北海道東部に百数十羽のみ。アイヌ名コタンコルカムイ(村の守り神)は、守られる身となった▼11月に始まるこの鳥の生態調査に、富士通の新技術がひと役買う。3時間の録音記録から、特定の生き物の声を数分で探し出せるソフトだ。50個のICレコーダーを使い、物静かな「神」が鳴いた時刻と位置を調べるという▼日本野鳥の会によると、以前は夜寒に耐えて調査員が聞き耳を立てていた。去年は録音方式を採り入れたが、解析に手間取った。新ソフトで解析時間は10分の1に、調査地点は3倍になり、保全すべき生息域を詳しく割り出せる見込みだ▼夜行性のフクロウは、目より耳で親しまれてきた。声は一般に「ゴロスケホーホー」「ボロ着て奉公」などと表す。北の大地に宿る神は、野太く「ボー」。その重低音は、寝静まる谷を伝わり、数キロ先に届くことがある。人のおごりをいさめる、森厳の響きを守りたい。
2012年10月21日(日)付
 今の季節、空が澄みわたる日には、すべてのものがはっきり瞳に映る心地がする。残暑のほてりもいつしか遠のき、気がつけば秋のただ中である。思うに任せぬ人の世を尻目に、天地のめぐりは律義なものだ▼ひと月前はまだ暑かった。「せめて秋の気分を」と思いススキを花瓶に挿(さ)したと書いたら、いくつか便りをいただいた。ある地方ではススキを屋内に飾ると火事を出す、との言い伝えがあるそうだ。彼岸花もだめ、という所もあるらしい▼なるほど、彼岸花は群れ咲く姿が紅蓮(ぐれん)の炎を思わせる。火事への連想はうなずけるが、はて、ススキはなぜだろう。そういえば〈夕焼、小焼、薄(すすき)のさきに火がついた〉という童謡が北原白秋にある。ぽっと燃えだすイメージを勝手ながら想像した▼ススキは地味ながら、古来ファンが多い。清少納言も大いにほめている。〈秋の野のおしなべたるをかしさは、薄こそあれ〉。秋の野の風情はススキのおかげよ、と礼賛されて、ススキ一族は鼻高々なことだろう▼秋台風が去って、列島の空はおおむね澄み渡る。日本晴れの語に季節の決まりはないが、やはり秋がふさわしい。晴れあがった夜は冷えて、木々は錦の刺繍(ししゅう)を織りなしてゆく▼盛りの紅葉は、初霜前線を抜いたり、抜かれたりしながら南下するそうだ。〈霜葉(そうよう)は二月の花よりも紅(くれない)なり〉の名句が唐詩にある。霜を経た紅葉は春の花より赤い、は詩的誇張ではあるまい。燃えるような山の粧(よそお)い、きょうはどのあたりまで下りて来たか。
2012年10月22日(月)付
 のちに「人類が核戦争の瀬戸際に立った13日間」と言われたキューバ危機から、半世紀がたつ。1962年のきょう、ケネディ米大統領はキューバ沖の海上封鎖を宣言する。ぎりぎりの緊張の中で米ソが核兵器のボタンに手を触れかけた、背筋の寒くなる現代史である▼大統領の弟、ロバート司法長官(当時)によれば、最大の難場で大統領の顔は引きつり、苦悩のため両目はほとんど灰色に見えたという。地球上の人々の生死に責任を負っているのを、ケネディは自覚していた▼もし引き金が引かれていたら、犠牲は米ソと欧州で最悪2億人を超えたともされる。「人類は戦争に終止符を打たねばならない。さもなければ戦争が人類に終止符を打つ」。よく知られるケネディの言葉は誇張でも何でもなかった▼時は流れて冷戦時代の幕は閉じたが、核廃絶への歩みは遅々として進まない。米大統領選でも議論の低調ぶりが伝わってくる。雇用などの内政に追われて「核」はテーマにも票にもなりにくいようだ▼しかし、2人の候補はずいぶん違う。オバマ氏は「核なき世界」の理念を掲げ、ロムニー氏は核戦力の維持と最新化を唱える。国威が衰えたとはいえ、この国のトップが、世界を左右しうる最たる人物なのは変わらない▼こと核問題に限らず、中東にせよアジアにせよ、自分も投票できたら、と思う人は少なくあるまい。そのことへの想像力を、どちらの候補が持ちうるか。選ぶ米国の有権者にも、世界への責任の一端がある。
2012年10月23日(火)付
 事件史に太字で刻まれそうな一件である。兵庫県尼崎市の民家床下から出た3遺体を手がかりに、おぞましい大量怪死が見えてきた。別の死体遺棄で起訴された女(64)の周辺には、なおも不明者や不審死が残る▼記事につく相関図は拡大する一方だが、ある家庭が突然、占領される展開は同じ。「進駐軍」の仲間にされた家族が暴れ、類縁が巻き込まれて財産をむしられる。そして用済みになると……。証言から浮かぶのは、軍隊アリを思わせる世渡りだ。その軌跡が発掘されつつある▼派手な服飾で、自宅や車も金ぴかの被告と、取り巻く強面(こわもて)の男たち。その迫力に、やらないと自分がやられると観念したか、肉親に手をあげる人もいたという。脅しすかしによる洗脳がうかがえる▼嫌われまいと上に服従する姿は、過激派やカルトの暴力でも見られた。しかし尼崎の集団を制していたのは、思想や教義ではなく、個人の身体と怒声のようだ。異能と呼ぶのは気が引けるが、良心や道徳を無視できる特異な性格もある▼世には、周囲に迷惑をかけても心が痛まない一群が確かに存在する。へたに関わると、こちらの生活や人生までを破壊してしまう困った人たち。まさに「軍隊アリ」だ▼家庭内の不和を装った、長期にわたる事件と思われる。尻尾をつかんだ警察が巻き返し、幸い、事情を知る面々は司直の手にある。この種の人間から身を守るためにも、なんとか全容を解明してほしい。途方もない相関図を、最後の一筆まで描いて。
2012年10月24日(水)付
 さるジョーク集より。「玄関の花瓶、ボクが割らないかずっと心配してたよね、ママ」「それで?」「もう心配しなくていいよ」――。国会を乗り切れるか危ぶまれた田中法相が辞任した。心配の種は消えたが、政権の信頼という「花瓶」は粉々だ▼献金や暴力団絡みの傷を持つ田中氏は、法の元締に適さないばかりか、答弁力も不安視されていた。国政より党内融和を考えてか、氏を重職に就けた野田首相も甘い▼民主党の惨状には目を覆う。解散怖(こわ)しで遅らせてきた臨時国会では、赤字国債、定数是正などの急務を片づけ、「近いうち」に信を問うしかなかろう。自民党も策を弄(ろう)する時ではない。席に着き、決めるべきは決め、言論で内閣を追い込むべし▼駆け引きに終始する二大政党を見るにつけ、いつにもましてまぶしいのは米大統領選だ。投票まで2週間、弁舌で鳴らすオバマ大統領に、共和党のロムニー候補が食い下がる。両者の支持率は拮抗(きっこう)し、3回の討論会はどれも白熱した▼最終回は外交がテーマ。アラブの春から中国の脅威まで約90分、現職がさすがの安定ぶりなら、挑戦者も得意の経済に引きつけて反撃を試みる。「ベスト2」の真剣勝負とは知りながら、つい永田町の「口べた」と比べていた▼しゃべりは政治家の生命線である。口だけでも困るが、わが国会が退屈なのは「ただの頭数(あたまかず)」が多いせいだろう。論戦力における雲泥の隔たりを思えば、日米で佳境を迎えたベースボールの実力差など、無いに等しい。
2012年10月25日(木)付
 「知る者は言わず、言う者は知らず」という。物事を深く理解する人は軽々に語らない、との戒めだ。世の地震学者は今、この言葉を呪文のように唱えていよう▼3年前にイタリアで起きた地震で、直前に「安全宣言」を出した学者ら7人に、禁錮6年の判決が下った。危険を十分に知らせず、被害を広げた過失致死傷罪。求刑の4年を上回る厳罰である▼一帯は当時、群発地震に見舞われ、不安が募っていた。発生6日前、7人は「知る者は語れ」を期待されてリスク検討会に臨む。結論は「大地震の予兆とする根拠なし」、防災局幹部は「安心して家にいていい」と踏み込んだ。遺族会によれば、やれやれと帰宅した中から30人ほどの犠牲者が出た▼死者309人、被災者6万人の現実は重いが、専門家は実刑に戸惑いを隠さない。山岡耕春(こうしゅん)名大教授は「驚いた。学者の責任を厳しく問えば、自由な発言や本音の議論を妨げる。長期的には住民にも不利益では」と語る▼口が災いの元では、学者たちは黙り、万一の備えが綻(ほころ)びかねない。同じ地震国の住人として、科学の手足を縛るような判決には首をかしげる。弁護側は「まるで中世の裁判」と控訴する構えだ▼福島の原発事故でも、東電や政府の関係者が民事と刑事の双方で訴えられている。被告席の背後にどっかと座る「安全神話」は、一片の安全宣言より罪深い。再び神話に頼ることのないよう、原子力に携わる全員が口を開く時だ。安全に関する限り、沈黙は「禁」である。
2012年10月26日(金)付
 華が足りないのか、新聞記者が主役の活劇は少ない。ささやかな誇りはアメリカンヒーローの重鎮、スーパーマンである。仮の姿のクラーク・ケントはデイリー・プラネット紙記者。編集局からの「出動」も多い▼その人が新聞社を辞めるという悲報にうろたえた。おととい米国で発売された新作で、上役に「スクープが少ない」と叱られ、こう息巻いて職を辞したそうだ。「新聞はもはや、ジャーナリズムではなく娯楽になり下がった」▼作者によると、退社後は「現代的なジャーナリスト」として独立し、インターネットでの発信に挑むらしい。「新聞で人助け」とか言っていたのに、そりゃないぜクラーク▼1938年に登場した正義の異星人。一貫して新聞記者の設定で、作者が代わっても勤め先は同じだった。「勤続70年」の転職である。同業の目には無謀と映るし、ひがみ半分、いわば副業だけに気楽なもんだとも思う▼娯楽だと嘆いたのは場の勢いだろうが、新聞の暗中模索は米国に限らない。メールも携帯小説も同じ文字文化だから、課題は活字離れではなく、紙離れだろう。小紙を含め、有料の電子版が競う世だ。空さえ飛べる男が時流に乗るのは道理かもしれない▼記者としての彼の難は、スーパーマンが降臨するほどの修羅場で「突然いなくなる」ことだった。体が一つしかないのは当方も同じ、あれもこれもの器用さは持ち合わせない。ひそかな自慢が業界を去っても、新聞という地味な人助けにこだわりたい。
2012年10月27日(土)付
 甘党から悪党まで、党のつく言葉は多い。政党名に至っては増える一方だ。自由民主党、公明党、日本共産党などの老舗は辞書にもあるが、多くは載る間もなく消えていく▼国政に戻る石原慎太郎氏の新党は、「党」ぬきの凝った名前になるのだろうか。なにせ母体となる「たちあがれ日本」の命名者である。氏が閣下と尊ばれるネット上では、「石原軍団」「大日本帝国党」と党名談議がにぎやかだ▼80にして起(た)つ。「なんで俺がこんなことやらなくちゃいけないんだよ。若い奴(やつ)しっかりしろよ」。脚光が嫌いなはずもなく、うれしそうに怒る記者会見となった。心はとうに都政を離れ、「やり残したこと」に飛ぶ▼霞が関との闘いはともかく、憲法の破棄、核武装、徴兵制といった超タカ派の持論を、新党にどこまで持ち込むのか。抜き身のままでは、氏が秋波を送る日本維新の会も引くだろう。保守勢力の結集は、深さ広さの案配が難しい▼政界は再編の途上にある。旧来の価値観や秩序を重んじる保守と、個々の自由に軸足を置くリベラル。競争と自立を促す小さな政府と、弱者に優しい大きな政府。乱雑なおもちゃ箱のように、二大政党にはすべての主張が混在する▼安倍さん率いる自民党など保守の品ぞろえに比べ、反対側、とりわけ「リベラル×小さな政府」の選択肢が寂しい。今から再編の荒海に漕(こ)ぎ出すなら、この方位も狙い目だ。もとは「泥船」からの脱出ボートでも、針路を問わず、漕ぎ手しだいで船の名が残る。
2012年10月28日(日)付
 天高きこの季節は、実りの秋にして食欲の秋でもある。しかし1945年、敗戦後の秋は食料がなく、人々は腹を空(す)かせて迫る冬におびえた。東京の日比谷公園では11月1日に「餓死対策国民大会」が開かれている▼そんな秋に封切られた映画「そよかぜ」は、映画自体より挿入歌「リンゴの唄」で知られる。撮影のとき、主演の並木路子がリンゴを川に投げた。まねだけのはずが本当に投げたら、スタッフが叫んで土手を駆け下りたという。リンゴ一つが何とも貴重だった▼以来67年がすぎて食べ物はあふれ、いまや「果物離れ」が言われて久しい。意外なことに、日本人が果物を食べる量は先進国の中では最低の水準という。体にいいとされながら、生で食べる量は減りつつある▼リンゴも苦戦が伝えられ、その理由の一つは「皮をむくのが面倒」だかららしい。便利とお手軽に慣らされたせいか、ミカンの皮むきも嫌う人がいるそうだ。ブドウも薄皮で種がなく、丸ごと食べられるのが人気なのだという▼低迷は果物だけではない。飽食の中で「魚離れ」「米離れ」も進み、「野菜離れ」が言われたりする。日本人は何を食べているのか心配になる。ファストフードとスナック菓子というのでは、どうにも寂しい▼しばらく前の朝日歌壇にこんな一首があった。〈「すばらしい空腹」といふ広告文広告として成り立つ日本〉。リンゴの唄は遥(はる)か遠く、飢えにおびえぬ健康な空腹。一顆(いっか)、一粒への感謝を忘れまいと思う、実りの秋だ。
2012年10月29日(月)付
 いつの間にか、という表現がぴったりする。ハロウィーンの日本への浸透ぶりだ。この季節に商店街を歩くと、あちこちからお化けカボチャが笑いかけてくる。アメリカでは、子どもたちが仮装をして近所を回る楽しい行事だ▼「トリック・オア・トリート(お菓子くれなきゃ、いたずらするぞ)」と、キャンディーやチョコをねだって歩く。だが、気になる話を在米中に聞いた。せっかくもらっても子どもに食べさせない親が、昨今はいるらしい▼何かが混入されていないか心配なのだという。言われてみれば悪意の入り込む隙はある。実際に事件があったのかは知らないが、体感治安が悪化しているようだ▼もっとも米国では、子どもが連れ去られる事件だけで年に数万件もあり、親の不安はうなずける。そして日本も「対岸の火事」ではない。警察庁によれば、小学生の犯罪被害は今年の上半期だけで9千件に迫っている▼とりわけ放課後や塾帰りは危ない時間帯だという。情報技術を駆使して居場所を確認し、安全を見守る。そうしたサポートも増えていて、ランドセルのまま道草を食って遊んだゆるやかさは、もう過去の話らしい▼ハロウィーンに話を戻せば、もとは悪霊を追いはらう行事でもある。米国では「コミュニティーのお祭り」の色合いが濃い。日本でも、地域など、子どもを育む共同体で楽しめば、つながりも深まろう。それが子を守る力にもなっていく。悪鬼のつけ入る隙をみんなのスクラムで封じたいものだ。
2012年10月30日(火)付
 2年前の夏、参院選で自民党が勝って与野党の勢力が逆転したとき、小欄でこんな言葉を引用した。「もっともよい復讐(ふくしゅう)の方法は自分まで同じような行為をしないことだ」。古代ローマの哲人皇帝マルクス・アウレリウスの金言である▼その3年前の参院選では、自公が大敗して過半数を割った。民主党はここぞとばかり、参院で首相の問責決議を連打して政権を揺さぶった。ついに自民は下野の涙をのむ。恨みつらみは分からなくもない▼しかし立場が変わり、やられたらやりかえせと意趣返しに走るなら、幼いけんかと変わらない。ここは器の大きさを見せてほしい。そんな意味合いの引用だった。ところが首相や閣僚の問責は繰り返され、きのう参院は野田首相に所信表明すらさせなかった▼史上初のことといい、演説に対する本会議での代表質問もない。なのに委員会の審議には応じるそうだ。玄関は閉めて勝手口から入れる――首相のメンツをつぶしたつもりで、参院の存在を自ら貶(おとし)めていないか▼これが前例になれば、参院には玄関など不要ということになる。その先は参院不要論だろう。当選後は6年間保証される身分が「良識」につながらず、解散のない安全地帯で政争にかまけては、世間の風は冷ややかになる▼もっとも今は政権に吹く風の方がよほど冷たい。野田首相もそろそろ通知表を国民からもらう覚悟がいる。潔さは、政治家の器を測る大事な物差しだ。政権に恋々とした目では、国の針路もよくは見えまい。
2012年10月31日(水)付
 秋色深まる首都東京で、威勢のいい言葉が宙を飛ぶ。スカッとしたい。そんな気分の高まりは、こと政治においてはやはり危うい。天気図の曲線に季節風を思う10月の言葉から▼民主主義を問う声が高い。最大格差5倍の参院選は違憲状態だと最高裁が判じた。原告側の弁護士伊藤真さんは「住む場所によって『あなたは0.2人前の価値しかない』となれば、ふざけるなと思いませんか」▼オスプレイが配備された沖縄で作家の目取真俊(めどるま・しゅん)さんが言う。「知事や全市町村長が反対してもダメ。座り込んでもダメ。沖縄はできることをしてきたが全く無視されている。沖縄に関して、日本の民主主義は機能しないのです」。復帰40年。本土による、本土のための民主主義への憤りは深い▼大阪で古書店を営む坂本健一さん(89)が、入院していた亡妻への絵手紙などを本にした。「お前のように無私無心になったことのない私だけどお前の清澄さが灯台だった今もそうだ」「妻和美、てい主健一65年の古本屋」▼山形県に住む100歳の劇作家山崎誠助さんは劇団も主宰し、震災復興にエールを込めた新作を来月の舞台で披露する。「命に限りはあっても、人の心や魂は『永遠』を刻むのではないか」▼76歳で突然逝った反骨の映画監督、若松孝二さんが語っていた。「どこの国だって若者は変革の原動力だよ。暑苦しいぐらい本気になって、挫折するものなんだ、若者は」。世代によらず、お任せ意識を叱る声が、耳に響いてくる。
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